VCDesign の芯
判断
Δ を受けて、人間が6語のいずれかで閉じます。ほかの語彙は使いません。すべての判断は一つの判断ゲートを通ります。
規範:core.yaml の decision と closure_loop、policies.yaml の judgment_gate、enforcement、temporal_governance。記録の形:schema_log.yaml。
1. 判断は人間が閉じる
- すべての判断の最終判断者(final_decider)は人間です。AI が案件について出したものは、人間が判断を閉じるまで提案です(公理 A3)。
- 閉じた判断は、その宣言を通じて実行してよい範囲を許可します。人間が閉じた判断で許可された範囲を越える実行は行いません。範囲の内側での実行には、改めての判断は要りません。範囲を越える変化は Δ として観測し、判断し直します(公理 A2)。
- 境界での判定(pass / deny / unknown)は、一回ごとの越境の検査で、判断ではありません。unknown は止めて上げ、pass として扱いません。
2. 6語
6語は正本の Decision をそのまま使います。VCDesign では、それぞれを宣言の扱いと次の状態に対応させます(implementation.md §3)。
| 判断 | 意味 | 宣言の扱い | 次の状態 |
|---|---|---|---|
| Proceed | 現在の構造・現在の宣言のまま進める | 現在の宣言を維持する。章を替えない修正を含む | active |
| Expand | 観測された Positive Δ に基づき、対象・規模・接続を広げる | blast_radius を広げる(before / after)。Positive Δ の観測と復旧能力の確認が必須 | active |
| Limit | 価値はあるが伝播範囲が広すぎるため、対象・権限・規模・期間を狭める | blast_radius を狭める(before / after) | active |
| Reframe | 価値・対象・境界・前提を再定義する | 新しい章として前提・境界・責任者・宣言を定め直す | reframed |
| Defer | 判断材料が揃うまで、責任付きで保留する | 暫定責任者と次回判断時刻を置く | deferred |
| Retire | 次の価値生成につながらないため終了する | 責任を解放し、残すものの保有者を移す。開始前の案件では開始しない判断を含む | retired |
確定した Δ は、判断で閉じるまで責任の下にあります。Defer は、責任者と見直しの時刻を付けて閉じる経路であり、逃げ道ではありません。
3. 判断ゲート
すべての判断は、この一つのゲートを通って人間が閉じます。確認項目は正本の Review Output(Upside / Downside / Continuity / Asymmetry / Decision)に従い、5原則の順に並びます。長期の判断か短期の判断かは確認の深さの違いで、別のゲートは設けません。
| 原則 | 確認すること |
|---|---|
| 残す | value_intent が宣言されている。residual_assets が保有者付きで宣言されている |
| 見つける | spread_signals.expected が宣言されている。Positive Δ が平均的な効果と分けて記録されている |
| 閉じる | blast_radius が宣言されている。共有される区画があれば failure_domain が宣言されている。上流の結論が確かめ直されている |
| 試す | reversibility が宣言されている。停止の経路が確認されている |
| 伝える | 判断の根拠が記録されている。長く続く案件では再導出の根拠が記録されている |
4. 判断ごとに必要なもの
| 判断 | 必要なもの(judgment_gate.per_decision) |
|---|---|
| Proceed | 追加の項目なし(判断ゲートの確認は通る) |
| Expand | 観測された Positive Δ(spread_signals の observed または unexpected)/拡大後の範囲でも復旧できることの確認/blast_radius の before と after |
| Limit | blast_radius を狭めた before と after |
| Reframe | 今の章が続けられないこと/新しい前提と境界/新しい責任者/構造に関わる場合は supervisor の承認 |
| Defer | 保留の理由/暫定責任者/次回判断時刻(既定の上限は7日。超えたら supervisor が閉じさせる) |
| Retire | 隠れた依存がないこと/責任の解放/関連する章への通知/残すものの保有者の移転 |
5. Expand と Limit は宣言の更新
Expand と Limit は、章を替えずに blast_radius の宣言を更新する判断として、before と after を記録します。Expand は宣言を広げ、Limit は宣言を狭めます。
- 宣言の更新を伴わない「小さな試行」は Limit ではありません。上限のない試行として判断ゲートで止めます。
- 平均的な効果が出ただけでは、Expand の根拠になりません。
架空の部品工場での Expand の記録例です(point-vs-line-improvement.md より抜粋)。
decision:
value: expand
positive_delta_refs: [reuse_cost_decline, unsolicited_pull]
declaration_update:
before:
scope: 1〜3 号ラインのデータ収集のみ(制御系には書き込まない)
max_loss: {unit: hours_data_gap, value: 8}
after:
scope: 1〜4 号ラインのデータ収集と品質管理課への読み取り連携(制御系には書き込まない)
max_loss: {unit: hours_data_gap, value: 8}
approved_by: {role: plant_manager}
decided_by: {role: plant_manager}
6. Positive Δ と Expand
「伝播可能にする」は、自動で広げることではありません。
- Positive Δ の観測と、保有者を付けた保有は止めません。停止・隔離・blocking の流れにも入れません。
- 実際に広げるのは Expand 判断です。Expand には、観測された Positive Δ と、拡大後も復旧できることの確認が要ります。
- 前提が欠けているとき止まるのは Expand 判断の方で、観測や保有ではありません。
- 原因が特定できない上振れは、境界の guard で unknown とし、拡大の根拠にしません。
7. 止める条件
判断ゲートは、Negative Δ の伝播と、前提を欠いた Expand 判断を止めます(judgment_gate.hard_stops)。Positive Δ の観測と保有は止めません。
- 致命的な下振れ(責任者の有無によらない)
- 責任者がいない
- 人間の最終判断者がいない
- 不可逆なのに最大損失が宣言されていない
- 観測された Positive Δ のない Expand
- 復旧能力を超える Expand
blocking は Negative Δ と Expand 判断にだけ使います。Positive Δ の観測や保有に関する指摘は、最大でも warning です(policies.yaml enforcement)。
8. 判断の記録
- 判断ごとに、Upside / Downside / Continuity / Asymmetry の観点で根拠を残します(
decision.basis)。根拠のない判断は、指標 decision_without_basis で捉えます。 - システムの状態は巻き戻せますが、責任の記録は追記のみです。提案、判断と根拠、owner、当時の証拠、境界の判定、巻き戻しの理由は消しません。訂正は新しい記録を足して行い、前の記録を消しません(
temporal_governance)。
9. 避けるパターン
- 平均的な成功だけを理由にした Expand
- 宣言のない試行(上限のない「実験」)
- 責任者や見直しの時刻がない Defer
- 生きている依存を隠したままの Retire